「Copper Omadine TM」を主軸とした総合バイオサイドメーカー アークサーダの船底塗料用防汚剤概略と今後の展望
アークサーダは2021年10月の新体制発足以来, 米トロイ, 米エンビロテックを相次いで統合し, バイオサイド分野を強化している。すでにトロイとは得意とする防カビ剤IPBCの更なる活用, 相乗効果発揮に向けて販売戦略の構築を開始している。具体的にはバイオサイド原体のカプセル化による効果持続や, より進んだ安全性の訴求、豊富なバイオサイド原体同士の併用によるフォーミュレーション技術, トロイが持つタイの研究開発拠点の活用で製品・技術開発の強化を図るなどが挙げられる。また, エンビロテックの持つ過酢酸製剤による食品工場での除菌ソリューションは残留性や金属腐食の課題を解決出来る除菌方法として注目を集めている。
日本では, アークサーダジャパンが主力事業のバイオサイドを含むマイクロビアル コントロール ソリューションズ(MCS)分野において, 工業製品向けの「マテリアルプロテクション」部門と, 一般消費者・業務用製品向けの「ハイジーン・ホーム&パーソナルケア」部門で事業を展開している。
工業用途の中の大きな柱の一つが船底塗料用防汚剤であり, ピリチオン類のリーディングカンパニーとして高く評価されている。船底をフジツボや藻類などの付着生物から守る防汚塗料用に, ブランド名”Omadine”を名付けた「カッパーオマジン」と「ジンクオマジン」を用意, 船底塗料用途の防汚剤として亜酸化銅と共に必要不可欠な原体として多くの塗料メーカーに受け入れられており, 豊富な採用事例を持つ。オマジンシリーズの製造・販売は古くは, 米OLINにまでさかのぼる事ができ, 2011年にアーチ・ケミカルズ・ジャパン(株)とロンザの統合を経て現在のアークサーダに至る。保有するスタンダードな防腐剤原体でもあるBITはその系譜を英ICI社に持ち, 長く買収や統合を繰り返した結果が, 現在のアークサーダの多彩なバイオサイド原体のポートフォリオに繋がっている。
「カッパーオマジン」と「ジンクオマジン」は、それぞれ銅と亜鉛のピリチオン系化合物であり, 亜酸化銅系の船底防汚塗料及び銅フリータイプの防汚塗料の双方に対応出来るのが強みといえる。ピリチオン系化合物は船底塗料のみならず, 工業用途、特に接着剤, シーラント, フロアマット, 建材塗料向けの防腐・防カビ剤として豊富な実績があり, その効果と安全性に定評がある。人体に近い用途, プラスチックや繊維製品の防臭抗菌加工, ふけ取り用シャンプーなどでも広く利用されてきた原体でもある。
欧州バイオサイド規制BPR(Biocidal Products Regulation)では, ジンクピリチオンの生殖毒性区分が1Bに変更されたが、古くからの歴史と豊富な安全性データを保有するアークサーダがそのリーディングサプライヤーとしての立場で, BPRで規定されているデロゲーションと呼ばれる反論活動を行っており, 今後の継続使用を訴求している。 現在でも欧州化学品庁(ECHA)は本デロゲーションを受けて, ジンクピリチオンが規制された場合の社会的・経済的影響の調査や需要家へのヒアリングなどの審査・レビューを行っている。
〇環境に配慮した防汚剤, バイオサイドに関する規制
船底防汚塗料には, 好ましくない汚損生物の定着や繁殖を回避したり, 最小限に抑えたりすることを目的に防汚剤(殺生物剤・バイオサイド)が配合されている。作用機構上, その防汚剤は塗膜に配合され, 水生環境中に絶え間なく放出される事を目的として設計される為, 航行上排除を狙った汚損成分以外の非標的生物に影響を与える可能性や, 海洋生態系を損なうリスクに対して細心の注意を払う必要がある。現在, 船底防汚塗料用途の防汚剤としては, 亜酸化銅, 銅ピリチオン, ジンクピリチオン, ジネブ, DCOITなどが多く使用されているが、防汚剤の安全で適正な使用を目的にその登録制度、規制が各国で整備されている。
有機スズ化合物の使用が規制されて以降, 日本塗料工業会は自主規格として, IMO・2001年の「船舶の有害な防汚方法の規則に関する国際条約」へ適合していると認定した製品リストを公開している。 2022年6月現在その数は370件であり, そのうち銅ピリチオンを使用した製品は207件と亜酸化銅に次いで多く, 亜酸化銅との組み合わせとして最も一般的に使用されている防汚剤である。
一方, 日本塗料工業会は防汚剤リスク評価審査委員会を設置, 防汚剤の海洋環境に対するリスク評価を自主的に行い, 海洋への溶出による環境リスクが適切に管理できるものであるかを審査している。現在のところ日塗工リスク評価・登録防汚剤リストに登録のある防汚剤は「カッパーオマジン」のみである。
船底防汚塗料は環境への配慮が不可欠であることから, 防汚剤の総量を減らした, もしくは防汚剤を使用しないタイプの製品開発も進められており, 塗膜表面の平滑性による経済的航行の実現など, 船主の要望に応える形での製品開発が求められる。
アークサーダでは船底塗料中に多く添加される亜酸化銅の低減を目的とする新たな製品開発を行っており, これが実現すればより少ない防汚剤添加量が可能になり, コストや環境に配慮した船底塗料開発が更に進むと考えている。また「カッパーオマジン」の防汚性能を増加させる添加剤としての役割も本開発品には期待しており, 防汚剤(バイオサイド)以外のソリューションを船底防汚塗料市場に導入する製品開発を積極的に進めている。
今後も船底防汚塗料用の新しいソリューションの開発を促進するため, アークサーダは研究ラボを日本にも保有, 専任のスタッフによる技術サポートを行っている。安全性や環境リスク評価データ, 専門知識は製品開発に必須であり, 顧客は法規制チームから適切な情報提供を得る事が出来る。このことから, 安心の価値を生み出す, 信頼できる塗料会社のパートナーとしての活動で, アークサーダは今後も市場にバリューを提供していく。
有効成分 | 銅ピリチオン |
外観 | 緑色の粉体 |
pH 10%水溶液@25℃ | 6.0 – 9.0 |
比重@25℃ | 1.80 +-0.02 |
沸点℃ | 282 |
吸油量 | 46 |
キシレンへの溶解性 | 15℃ 29ppm 25℃ 32ppm |
図2ジンクオマジンの物理化学性状
有効成分 | ジンクピリチオン |
外観 | オフホワイトの粉体 |
pH 10%水溶液@25℃ | 6.0 – 9.0 |
比重@25℃ | 1.782 |
沸点℃ | 267 |
吸油量 | 62 |
キシレンへの溶解性 | 15℃ 64ppm 25℃ 86ppm |
(著:島田嘉一、理工出版社 月刊『塗料技術』2022年8月号)